今年4月末に、焼肉チェーン店でユッケを食べた客が病原大腸菌「O111」による食中毒で死亡するという事件がありました。普段私たちが当たり前のように口にしている食の安全が、改めて問われるきっかけとなった事件でした。食の種類も質も多様化している現代の食事情のなか、安全面はもちろんのこと、必要な栄養を食べものから摂るという点からも、一人ひとりの食に対する正しい選択・判断能力が求められています。 |
大腸菌は人や家畜の腸内にかならず存在します。そのほとんどが無害ですが、いくつかのものは下痢や合併症状を引き起こすことがあります。なかでも「腸管出血性大腸菌」と呼ばれるものには、毒素を生産し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こすものがあります。腸管出血性大腸菌は、菌の成分により、菌の表面にある細胞壁由来の「O抗原」や、べん毛由来の「H抗原」などいくつかに分類されます。今回の「O111」をはじめ、よく知られている「O157」は、O抗原として111番目と157番目に発見されたものという意味です。 |
「O111」や「O157」などの腸管出血性大腸菌は、もともと牛の腸に棲息しており、それに汚染された食べものや水を口にすることで感染します。感染すると、2〜7日の潜伏期間の後、激しい腹痛と、頻回の水様便、軽度の発熱といった症状が出ます。重度になると、おう吐や血便、最悪の場合、今回のように死に至ります。 |
感染初期は風邪や下痢に症状が似ているため軽視しがちですが、少しでも食中毒が疑われたら、速やかに医療機関にかかりましょう。また、毒素を体外に排出できなくなってしまうため下痢止めは絶対に服用してはいけません。さらに、二次感染にも注意が必要です。菌は胃酸で死滅しないため、感染者のおう吐物の処理には十分注意しましょう。感染者と同じお風呂の水に浸からない、食前、トイレのあとに手洗いを徹底するなどを心がけてください。 |
食中毒は一般に、気温が高い初夏から初秋にかけて多く発生します。この時期は食中毒菌が繁殖するのに適した気温であり、また、体力の低下や食品の不衛生な取り扱いなどの条件が重なって発生すると考えられます。しかし、それ以外の時期にも食中毒は1年をとおして発生していることから、常に注意が必要といえます。とくに、これからの時期、屋外でバーベキューをする機会があったり、節電により例年よりも室温が上昇することなどが予想されます。食品の洗浄や加熱など、衛生的な取り扱いが大切です。家庭でも気をつけていただきたい食中毒予防のポイントをご紹介します。 |